木材の組織構造は、多様性に富む樹木の生活史の記録です。単に美しいだけでなく、長い進化の過程で獲得した、樹種固有の「かたち」が存在します。そこには、与えられた環境に適合して行く上での機能分化や、最小限の素材 −セルロース、ヘミセルロース、リグニン− を用いて最強のセル構造体を形成し、長寿命をもたらす力学的な最適化の跡が見て取れます。そんな木材のもつ個性を、最近の情報処理技術を利用して解析しています。
木材は樹幹の木部細胞の細胞壁そのものです。木材の細胞壁成分は、細胞膜およびゴルジ装置などの細胞小器官の働きによって合成され、細胞骨格や小胞輸送の関与によって細胞壁へ輸送されます。また、心材化に伴い心材成分が細胞壁に沈着します。より生きた状態に近い細胞構造を保持できる高圧凍結法、微小管重合阻害剤の投与、特定の細胞壁成分を可視化できる免疫標識法などを駆使し、細胞壁形成に関わる細胞骨格および細胞小器官の働き、心材化に必要な光合成産物の輸送を調べています。
木材の細胞壁はセルロース、ヘミセルロース、リグニンが複雑に複合した構造を持ちます。それらの成分の3次元的構築過程を様々な手法を用いて解析しています。樹木はあて材と呼ばれる特殊な組織を作って姿勢を制御し、環境に適応しています。あて材の細胞壁微細構造や成分分布を電子顕微鏡法、リグニンの特定の部分構造や糖鎖を認識する抗体を用いた免疫標識法などで解析し、各構成成分があて材の機能発現に果たす役割について考察しています。